認証企業事例紹介
人命第一の防災と融合したBCMを、
全社一丸で追求株式会社 白謙蒲鉾店(宮城県石巻市)
(株)白謙蒲鉾店
常務取締役
白出 雄太氏
(株)白謙蒲鉾店は、宮城県石巻市で100年以上にわたり笹かまぼこをつくり続けてきた老舗企業で、素材の品質に徹底してこだわった製品は県内外で高い人気と評価を誇っている。東日本大震災では本店と 2つの工場の3拠点全てが被災したものの、翌月には生産を再開するなど、経営陣の強いリーダーシップで困難を乗り越えてきた。その後も、事業継続力強化に向けた対策の不断の見直し、全社一丸となった演習や訓練など徹底した取り組みを続けている。こうした中でDBJは2015年2月に続き、2016年10月、同社に対し2回目の「DBJ BCM格付」最高ランクに基づく融資を実施。活動を推進する白出雄太氏に、取り組みの経緯や想いを語っていただいた。
創業の精神が育んできたもの
貴社のこれまでの取り組みには、経営者のリーダーシップというものを強く感じます。まずは、企業理念からお話しいただけますか。
社是は「満足」。顧客、従業員、すべての利害関係者に対する満足を得られるように努めることです。創業107年を迎えた今も社長自らが魚を熟知し、毎日味見を行い、お客様にその日の最高のものをお届けする」をモットーに商売を続けてまいりました。ご意見、ご要望があれば、どこでもすぐに伺い、お話をお聴きするよう徹底しています。お取引先に対しては、「一業種原則一社」という考え方で、信頼できる一社ととことんお付き合いする共存共栄の関係を大切にしています。また、「白謙会」という供給先様だけの会がありお互いを尊重し懇親に努めてきました。
百貨店やスーパーなどの卸先様も、拡売ありきで増やすようなことはしません。一社一社との深いつながりを大切にしています。
震災の翌月に製造販売を再開できたのも、白謙会を始めとする多くの関係者の方々からの多大なご協力があってのことでした。私どもからお願いするまでもなく、皆様が独自に連携されて各方面から様々なご支援をいただいた。本当にありがたかったです。これからも変わることなく、皆様との関係を大切にしてまいりたいと思います。
震災が突きつけた課題。人命第一の取り組みが始まる。
そういった関係者とのつながりに加えて、震災以前から防災への意識が高かったからこそ、就業中の従業員全員の生命も守られたのだと思います。震災によって、新たに何を教訓とされたのでしょうか?
震災はまさに想定外のことだらけでしたが、我々役員がみなその場にいたから、様々な意志決定を素早く下すことができました。逆に、それができなかったことで起きた悲劇も石巻にはたくさんあります。役員が不在のときでも対応できる体制と能力が必要なのだと、そのときに痛感しました。現在の取り組みの原点は、そこにあると思います。
また、「検討」はしていたけれど「対策」に至っていないことで大きな被害につながった事例も、目の当たりにしています。絶対に「検討」のままで終わらせてはいけないのだという思いも、そこで強まりました。
当行とのお取引は2012年の東日本大震災復興ファンドに始まります。そして2013年6月から、人命第一優先の防災と融合した事業継続活動をスタートされました。まさに「全社一丸」での取り組みでしたが、どのような点に留意されましたか?
まず活動の開始にあたっては、会長自らキックオフ宣言を行いました。家族や親族を亡くした従業員もたくさんいてみんな不安だらけの中で、ビジネスのための防災でも事業継続でもなく「人命の尊重を第一とする」取り組みなのだという、経営者の想いを伝えました。
そこから、「次に津波が来たら、仕事をしている最中でも逃げていいのか」「商売をそこで止めてもいいのか」といったことを一つひとつ皆で確認しながら、心をつないでいきました。
その後、「事業継続」というものを理解するようになり、訓練や教育だけでなく「演習」がいかに大事かが分かってからは、そこで見つかった課題をその場ですぐにルール化する、あるいは経営者に判断を求めて方針を決める、ということを徹底していきました。その一例として、今年の台風対応では進路予想を軽視せず、雨雲レーダー等を駆使しながら製造開始時間を調整し、前日から未明の暴風雨の時間帯は出社させず作業を中断することを決定し、事前に百貨店やスーパーなどの卸先様にもご了解をいただき、事業継続することができました。また、通過後も台風関連の演習を行い、今後の課題も抽出されており、それがルーティンとなっています。一時的には会社の損失になるかもしれませんが、従業員や利害関係者の命を優先する姿勢が伝わることで、推進しやすい環境が整えられると考えています。
人材を育て、経験を伝える活動へ
そして2015年、2016年と二度にわたって当行の「BCM格付」の最高ランクを取得。現在はどのような取り組みをされていますか?
重点を置いているのは、活動を持続していくための後継者、人材の育成です。大きな方針こそ経営層で立てますが、実務的な運営やルールづくり、演習や訓練などは所属長レベルに任せています。昨年行った演習・訓練は54回で情報連絡訓練が大半です。全従業員が必ずいずれかに参加し、難しくないと思ってもらえるように実施しています。中心メンバーには防災士の資格を取得する者もいて、最近では女性社員の活躍も目覚ましいです。
自然災害だけでなく、感染症、情報セキュリティーや食品安全といった課題にも取り組んでいます。
最後に、これまでの取り組みから得られたもの、そして今後の目標についてお聞かせください。
「人命第一」の姿勢や防災への取り組みが、地域や教育現場、果ては消防署にまで口コミで広がったことで、就職を希望する方が増えて採用面に思わぬ効果をもたらしています。また、活動を繰り返す中で、従業員が抱える様々な不安や課題もこと細かく把握できるようになり始めました。
DBJの「BCM格付クラブ」に参加させていただき、BCMに取り組む企業様との交流機会や最新の情報をいただくことで、取り組みの妥当性などを把握することもできました。
今後は、社是である「満足」を多くの関係者の皆さまにお届けするためにも、私どもの経験を活かして石巻での連携をさらに広げるとともに、様々な地域や企業様に復興の恩返しとしてお伝えしてまいりたいと思います。
(聞き手:サステナビリティ企画部長 田原 正人)
※役職等は取材当時(2018年11月)のものです。