認証企業事例紹介

持続可能なモビリティ社会の実現に向け、
サステナビリティ経営を展開する日産自動車株式会社(神奈川県横浜市)

日産自動車(株)
専務執行役員 チーフサステナビリティオフィサー

川口 均

日産自動車(株)は、「人々の生活を豊かに」という企業ビジョンを掲げ、持続可能なモビリティ社会の実現に向け、CSO(チーフ・サステナビリティ・オフィサー)統括のもとサステナビリティ経営をグローバルに展開している。特に環境面では「企業活動や車のライフサイクル全体での環境負荷や資源利用を、自然が吸収できるレベルに抑えること」を目指しており、地球の未来に残すフットプリント(足跡)を極力小さくする努力を続けている。こうした積極的な取り組みを行う同社に対し、DBJは2016年10月、「DBJ環境格付」に基づく融資を実施した。

[季刊DBJ 36号] 2017年8月発行 より抜粋。役職等は当時のものです。

「ゼロ・エミッション」と「ゼロ・フェイタリティ」

世界的な人口増加や都市化の進行などに伴い、世界の自動車台数は2050年までに24億台になると予測されている。また、世界の温室効果ガスの排出量に占める運輸部門の割合は約14%※1と試算されている。さらに、交通事故による死亡者の数は全世界で年間約125万人※2にものぼる。
こうした問題を解決し、持続可能なモビリティ社会を実現するために同社が目指すのが、走行中のCO2排出量をゼロにする「ゼロ・エミッション」と、日産車が関わる交通事故の死者数をゼロにする「ゼロ・フェイタリティ」だ。そして、環境に関わる象徴的な2つの取り組みが、2010年発売の量産型電気自動車(EV)「日産リーフ」であり、2002年度から始動した中期環境行動計画「ニッサン・グリーンプログラム(NGP)」だ。
昨年5月にカルロス ゴーン社長(当時)から直々の要請で新設のCSOに就任した同社専務執行役員の川口均氏は、2つの取り組みは進化し続けているとして次のように語る。
「『日産リーフ』の世界累計販売台数はすでに26万台を突破していますが(2017年3月時点)、今秋発売予定の新型『日産リーフ』では、『ゼロ・エミッション』というEVの機能をさらに進化させたことに加え、『ゼロ・フェイタリティ』を目指す日産が、既に新型『セレナ』、『エクストレイル』に搭載している、高速道路における同一車線自動運転技術『プロパイロット』を搭載しています。さらにこの車は『プロパイロット パーキング』という国産車初の本格的自動駐車システムも装備した画期的なクルマとなっています。
また、NGPも3世代目の「NGP2016」が昨年度終了し、現在、それに次ぐ新たな環境行動計画を準備しています。NGPでは2050年までに新車のCO2排出量を2000年比で90%、そして、生産・販売・サプライチェーン全体を含めた企業活動全体からのCO2排出量を2005年比で80%、それぞれ削減するという目標を掲げて着実に取り組んできています」
川口氏は、「片方で車という商品のCO2削減を図り、片方で企業活動によるCO2の排出を抑えていくというゼロ・カーボン社会を目指した隆々とした活動を早くから推進しています」と、取り組みへの自信を示す。

サステナビリティ経営に先進的に取り組む

こうした同社の取り組みを評価してDBJが行った「DBJ環境格付」融資は、独自の格付システムにより企業の環境経営度を評価、優れた企業を選定し、得点に応じて融資条件を設定するという世界初の融資メニューだ。同社に対する格付では、主に以下の点が高く評価された。
グループ横断的なCSRマネジメント体制を構築し、最高意思決定機関であるエグゼクティブ・コミッティが方針や取り組みを決定している点、また、8つの「サステナビリティ戦略」について、各戦略が具体的な目標及びKPIを設定したうえで、CSRスコアカードにより海外拠点も含めてPDCAサイクルを運用し、取り組みを着実に進展させている点。
「新車のCO2排出量を2050年までに2000年比で90%削減する」という超長期ビジョンのもと、「ゼロ・エミッション」と低燃費車の拡大に注力し、革新的な次世代自動車の開発や燃費技術の高度化を促進するとともに、業界でもいち早くEVを量産化する等、低環境負荷型車両の普及拡大に努めている点。
安全やダイバーシティについてもKPIを設定し、日産車の関わる交通事故の死者数を実質ゼロにする「ゼロ・フェイタリティ」を目標に高度な安全技術の開発に取り組むとともに、ダイバーシティを経営戦略の1つに位置づけ、ジェンダーとカルチャーを2つの柱に、女性のキャリア開発支援や働き方改革等の数々の施策を推進している点。
その結果、同社は「環境への配慮に対する取り組みが特に先進的」という最高ランクの格付を取得するとともに、格付評価が傑出して高いモデル企業のみが該当する特別表彰を受賞した。

企業としての優しさがサステナビリティを決める

川口氏は、「当社ではESGを積極的に企業活動に落とし込むようにしています。たとえば、Eでは『ゼロ・エミッション』や企業活動からのCO2排出量の削減、Sでは『ゼロ・フェイタリティ』やダイバーシティの推進、そしてGでは厳しい内部統制や世界同一の電子決済システムといった具合に、すでにESG経営の実体は存在しています。ダイバーシティでは、「ジェンダー」と「カルチャー」の2本柱での取り組みを行っており、例えば当社の日本における女性の管理職比率は10%に達しました。これは、日本の主要自動車メーカー8社の平均的な割合の3倍を超えるレベルです。また、本社役員約50人中の半数が外国人、さらに、日本の社員の中途入社比率が25%を占めるようになり、様々な経験を持つスペシャリストが増加しています」と語る。
CSOとして好きな言葉があると川口氏は続ける。「それは、『強くなければ生きていけない。優しくなければ生きていく資格はない』という、レイモンド・チャンドラーの探偵小説に登場する主人公の台詞です。収益をあげて株主のためになるだけではなく、この企業は本当に社会に必要なのかが問われる中で、サステナビリティを決めるのは優しさだと思っているのです」
強さと優しさを合わせ持つ企業こそがサステナブルであり得る。そのことをどこよりも早く、深く認識し、実践してきたからこそ、同社は「世界で最も持続可能な会社となる」という目標へ近づくことができているのだ。

※1 出典:© IPCC,AR5-WG III
※2 出典:WHO「Global Status Report on Road Safety 2015」