認証企業事例紹介
創業の精神を原点に、
自然体でCSRに取り組む井関農機株式会社(愛媛県松山市)
井関農機(株) 取締役副社長執行役員
冨安 司郎氏
井関農機(株)は、愛媛県松山市に本社をおく農業機械専業メーカーで、大正15年創立。「農業機械を通じて社会に貢献する」という使命のもと、「豊かで持続可能な社会の実現」に向けて、重要課題と目標を設定しグループ全体でCSRに取り組んでいる。高い技術力と地域密着型の活動で農業の省力化や生産性拡大に貢献、環境に配慮した製品開発に努めてきたことなどを高く評価し、「DBJ 環境格付」でも最高ランクに位置づけられた。CSR推進会議の議長として、環境経営からサステナビリティ経営へと軸を広げ活動を推進する冨安司郎氏に、現状の取り組みと課題について語っていただいた。
事業そのものをCSRと考えるところから始まった
貴社のCSRへの取り組みには経営理念が深く反映されているように感じますが、いかがお考えでしょうか?
創業者の井関邦三郎は「農家を過酷な労働から解放したい」、厳しい農作業が機械を入れることで少しでも楽になればとの思いから、会社を起こしました。そしてこの言葉を「井関の精神」として大切にし、私どもはずっと事業を続けてきたわけです。この創業の理念が私たちの事業そのものであり、今CSRを語るときのスタート台ともなっています。
私どもの社是には、「需要家には喜ばれる製品を。従業員には安定した職場を。株主には適正な配当を」とあります。半世紀以上も前に掲げられたものですが、まさにCSRの原点を言い当てている。CSRをあまり難しくとらえず、この創業の理念、すなわち私たちの事業そのものを貫いていけばそれがCSRになるんだ、そういう考えで推進しているところです。
どこよりも農家に寄り添ってきた会社だから
貴社の競争力や強みは、どこにあると見ておられますか?
大きく三つあると思います。
一つはやはり技術力。弊社は50年以上前に世界初の自脱型コンバインを開発しました。その5年後には「さなえ」の愛称で広く親しまれるきっかけとなった2輪後傾苗タンク式の歩行型田植機が生まれました。以来、稲作機械化の一貫体系をつくるなど様々な農機を世に出してイノベーションを起こしてきましたが、つねに農家に寄り添ってきたことが開発の原動力になったと思っています。実際に使われる方たちの声をつぶさに聞きながら、改良を続け、アイデアを形にしてきたわけです。弊社は、特許出願の分野別登録数で国内トップ、特許査定率は全産業中で13年間のうち12年間で第1位です。これは私たちの技術力を示すひとつの証になるものだと自負しています。
二つ目は、営農提案・サポート力です。それを象徴するのが、「つくばみらい事業所」です。ここには、夢ある農業総合研究所(夢総研)とISEKIグローバルトレーニングセンター、野菜作機械を一貫体系で紹介する展示フロア等があります。先進的な営農技術の研究・情報発信拠点として、あるいは技術サポートを推進する部門として、また社員の技術研修を行う場として井関グループの重要な役割を果たしています。ハードだけでなく、ソフト面からも農家をしっかりとサポートしていく、そんな企業姿勢が集約された場所だと思います。
三つ目は、連携によるイノベーション。正直に申し上げて、弊社は人的にも財務的にも豊富な資源があるわけではありません。例えば現在、新潟市の「スマート農業 企業間連携実証プロジェクト」に参画して様々な実証実験を行っています。各地域の大学や研究機関と共同で開発を行ったり、自前主義にこだわらず多くのパートナーと関係を築いて新しい価値を創造するのが得意です。これは海外戦略においても同様で、地域ごと精通したパートナーに恵まれたことが、近年のグローバル展開に大きく寄与しました。
農業の課題解決が、井関グループの存在意義
「農業女子プロジェクト」も注目されていますね。
農林水産省が推進する産官学共同プロジェクトで、農機総合メーカーとしては唯一弊社が参画しています。昨今はあらゆる場で「女性の活躍」が叫ばれていますが、もともと日本の農家は「三ちゃん農業」と言われるように、父ちゃんが出稼ぎで、爺ちゃんと婆ちゃん、母ちゃんで成り立っていましたから、女性は主力メンバーだった(笑)。ただ機械化が進む中、女性への視点が欠けていたのも事実で、農業離れの一因になったと思います。そこを反省して、農業女子の皆様と意見交換を重ねながら、操作性を向上させたものを開発してみると、女性だけでなく高齢の方や農業初心者の方にも使いやすいことがわかった。まだまだ課題は多いですが、取り組む価値のある領域だと思っています。
いま「課題」という言葉が出てきましたが、貴社の経営戦略の中ではどのように社会課題などを認識し、環境やCSRの取り組みを位置づけておられるのでしょうか?
冒頭にも申し上げましたが、私どもの事業活動そのものがCSRだと位置づけています。まず農業そのものが「食」に関わり社会課題につながるものであり、その中で私たちの存在意義、使命とは、まさしく農業の課題解決だと。
ご存知の通り、日本の農業は高齢化や離農による深刻な労働力不足に直面しており、農地集約による「大規模化」は避けて通れない課題となっています。また近年日本人の食文化が大きく変わったことで、米作から畑作・野菜作への「作付転換」も喫緊の課題と言えるでしょう。海外においては世界人口の増加に伴う食料不足という大きな課題があり、機械化・工業化での生産性向上が待たれています。私たちはこうした世界中の農業の変化や課題に対応するため、先端技術の研究や低価格での商品開発、野菜作の機械化、海外における現地生産体制の構築などに、信念を持って取り組んでいるところです。
貴社は「DBJ環境格付」の最高ランクを12回続けて取得されるなど、環境に対しても早くから取り組まれてきました。
「DBJ環境格付」は、2004年からお世話になっています。環境格付評価でのヒアリングやフィードバックなどの対話を重ねることを通じて、毎年取組の改善を図ってまいりました。弊社の環境への取組みですが、ものづくりの会社として、製造所を中心とした地域への環境保全活動が私どものCSRのスタートでした。2004年から「環境報告書」を発行し、2016年から現在の「CSR報告書」になっています。環境経営は今も弊社の重要課題であり、グループ全体で環境マネジメントシステムを導入し推進しています。具体的には、2030年度までにCO2排出量を26%削減(2013年度比)、商品開発では「エコ商品認定制度」を設け、従来製品より燃費向上や肥料ロス軽減、節水等に寄与する商品開発・提供を進め、当該製品割合が2020年度までに30%を占めることが目標です。
関わる人たちの喜びが、社員を育てていく
少し前まではCSRと収益を切り離して考えるのが主流でしたが、今は企業が長く存続するためにCSRやSDGsをいかに収益と結びつけるかが問われるようになりました。貴社はそれを先進的に取り組んでこられた。社内ではどのような反響がありましたか?
社員一人ひとりにその考え方を浸透させるのは、容易ではありません。今も道半ばです。
ただその中でも、「農業女子プロジェクト」は社会課題の解決につながるところが目に見えやすく、社員のモチベーションアップにつながったと感じます。また野菜づくりの機械化でも、これまで米中心だった中で新しい世界を切り開くような実感が得られているのではないでしょうか。最近では地域の特産品の機械化や栽培支援などに各地で取り組んでいますが、「地域活性化」という新しいテーマにも社員たちは手応えを感じているようです。
やはりお客様や周囲の人たちに喜んでもらえることが私たちの最大の励みになるのだと、再認識しました。これからもコミュニケーションを大切にしながら、井関らしく自然体で、社会に貢献してまいりたいと思います。
(聞き手:取締役常務執行役員 成田 耕二)
※役職等は取材当時(2019年1月)のものです。