認証企業事例紹介

従業員とともにつくる共創健康経営株式会社 丸井グループ(東京都中野区)

(株)丸井グループは、都市圏を中心にファッションビル「マルイ」等を展開する小売事業と、「エポスカード」の展開によるフィンテック事業が一体となったユニークな事業形態で、幅広いお客さまに豊かなライフスタイルを提供している。経営理念に「お客さまのお役に立つために進化し続ける」「人の成長=企業の成長」を掲げ、中長期的な観点で企業価値向上を実現すべく、早くから従業員の健康対策に高い水準で取り組んできている。DBJは2016年10月、同社に対し「DBJ健康経営(ヘルスマネジメント)格付」に基づく融資を実施した。

[季刊DBJ 36号] 2017年8月発行 より抜粋。役職等は当時のものです。

ESGの一環として健康経営に取り組む

同社では今、すべての事業プロセスにお客さま視点を取り入れ、お客さまの「しあわせ」をすべてのステークホルダーと共に創りあげる「共創価値」経営を進めている。その中で重視しているのが「インクルージョン(包摂)」という考え方で、すべてのステークホルダーとの共創を通じて、すべての人がインクルードされる社会づくりを目指している。同時に、拡大するESG投資の流れを踏まえた上で、サステナビリティの実現を新たな目標として掲げ、長い時間軸で、未来志向の「本業=社会へのお役立ち」への取り組みを進めている。
従業員の成長を支える「健康経営」にも、ESGの内のS(社会)への取り組みの一環として注力しており、「DBJ健康経営格付」に基づく融資も、そうした同社の優れた健康経営を評価して実行された。
「DBJ健康経営格付」は、独自の評価システムにより、従業員の健康配慮への取り組みが優れた企業を評価・選定し、その評価に応じて融資条件を設定するという、「健康経営格付」の専門手法を導入した世界初の融資メニューだ。同社に対する格付では、以下の3点が高く評価された。
健康経営推進組織を構築し、課や事業所単位での時間外労働に係る数値目標の設定や健康状態や生活習慣の把握・分析等により、グループ全体への健康経営の浸透を図っている点。
生活習慣病では項目別に基準を統一。リスク低減に向けた中期の数値目標設定を行い、健康保険組合と連携して全従業員に生活習慣改善支援を実施している点。
育児との両立に向け、「不妊治療休職」「子の看護休暇」等の制度導入や、男性の育休取得率等も含めた数値目標設定など、従業員が働きやすい環境づくりを進めている点。
その結果、同社は、「従業員の健康配慮への取り組みが特に優れている」という最高ランクの格付を取得した。

「健康経営プロジェクト」で従業員の健康を企業価値へ

「創業者が従業員を家族だと思って会社経営を行ってきたので、従業員の健康には人一倍注意を払ってきました。1970年には自前の健保会館を作り、そこで診療所と歯科、人間ドッグの体制を作っていました。もともと、女性従業員の比率が高く、1990年代半ばまで平均年齢が低い会社であったため、健康保険の医療費も低く抑えられ、先行的な取り組みを行えたわけです」
従業員の健康対策に対する取り組みの早さについて、そう語るのは同社取締役常務執行役員・石井友夫氏だ。
「ですから、昔から1人ひとりが自分の健康管理について考えるとともに、健保と会社のコラボレーションを当たり前のごとく行ってきていました。その結果、健康に対する従業員の意識も高く、たとえば定期健康診断の受診率は、この2年間100%、人間ドックの受診率も、個人負担が1万円ほど必要にもかかわらず対象者の6割を超えています。また、昨年度の1人当たりの年間平均残業時間は44時間を実現しています」
健康経営のレベルをさらに高めるため、昨年11月には「健康経営推進プロジェクト」を立ち上げた。その狙いは、従業員1人ひとりの健康が企業価値につながるということをグループの従業員全員で考える組織風土を創ることだ。51人のメンバーは公募で選んだが、応募者は260人に達したという。

「人の成長=企業の成長」の実現に向けて

プロジェクトでは月に1回、全国各地から51人が参加して「丸井グループが目指す健康とは何か」について対話を重ねてきた。やがて、メンバーが共有できたのは、健康とは思った以上に深く、もっと経営に結び付けられるものということだ。そして、その成果を丸井グループの健康ビジョンへと昇華させるべく、半年をかけて開発に取り組み、「すべてはみんなのハッピーのために~しなやかなアタマとカラダで今よりもイキイキ~」という独自のビジョンにたどり着いた。
今、このビジョンの実現に向けたイベントを2つ予定しているという。プロジェクトの活動を全管理職に伝えるための共有会と、プロジェクトの理念・目的を全従業員に理解してもらうためのフェスティバルだ。「皆に楽しく理解してもらえるよう、グループ内で進められている他の2つのプロジェクトと合同のインクルージョン・フェスティバルとして開催しようと、今、準備中です」(石井氏)
健康経営の強化に向けては、他にも、従業員の健康に対する意識向上を促進するための「健康イキイキ月間」の開催、女性の健康推進リーダーの全国設置、「KENKO企業会(注)」への参加など、矢継ぎ早に積極的な施策を行っている。
今後の課題の1つが、健康と業績との関係性の検証とKPIの明確化だと石井氏は言う。「定期健診データから、睡眠と運動が個人のパフォーマンスと関連性が強いことが分かってきました。こうしたデータの関連性をKPI化して定量的に示すことが必要です。ただ、健康への取り組みの成果は長期的に見ないと判断しにくいので、そのための体制の準備も進めたいと思っています」
「人の成長=企業の成長」という経営理念の実現に向けて、同社では「共創」の根幹となる健康経営のレベルアップを着実に進めていこうとしている。

(注)KENKO企業会 : 健康プログラムやノウハウなどを共有し、健康推進のレベルアップを図ることを目的に、2015年6月に設立された。会員企業は59社(2017年5月現在)。